ひと昔前まで、高血圧症は「サイレンとキラー(静かなる殺人者)」と呼ばれ、糖尿病や高脂血症と同じように、本人が
気づかないうちに脳血管障害、心血管障害、腎不全が進行し、最終的には死に至る怖い病気でした。 現在でも、適切な治療が行われなけ
れば本質的には同じ状況であり、早期に高血圧症を発見して、適切な治療を行うことが大切です。
特に、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害を左右する最大の原因は高血圧症といわれて
います。 したがって高血圧症の人は、血圧のコントロールをしっかりと行い、合併症を起こさないようにすることが、アンチエイジング医療といえます。
高血圧症は、「最高血圧が140mmHg以上、または最低血圧が90mmHg以上」と定義されていますが、わが国の
1998年の統計では、なんと3300万人の人が該当することになります。 また、2001年国民栄養調査によると、15歳以上の国民男性の
3人に1人、女性の4人に1人が高血圧症であるといわれているのです。
このページでは、
◆血圧の測定はいつ測るのが適切か
◆食生活は何に気をつけるべきか
◆食事以外の日常生活では何がもっとも大切か
◆高血圧性合併症の予防からみた治療薬は?
に注目してアンチエイジング医療的な解説をしていきます。
まず、家庭で使用する血圧計についてです。 家庭用血圧計として、上腕用、手首用、指用と3種類の血圧計が販売されていますが、
できるだけ上腕用をお使いください。 上腕以外では測定誤差が大きいことがあります。 また、測定時に気をつけることは、
数分間安静にして、座った状態で測定することです。
ところで、血圧は24時間一定ではありません。 ストレス時やよく眠れなかった時などは上昇したり、昼間の血圧は夜間より若干高いのが
普通ですが、夜間血圧が下がらない人、夜間血圧が極端に下がる人、逆に昼間より上昇する人は、脳梗塞や心肥大の危険性が高く、
要注意です。
また、早朝に血圧が上がってくる「早朝高血圧(モーニングサージ)」も危険です。 早朝は血液量も少なく、血液が
固まりやすいため、午前中に多いとされる脳卒中や心筋梗塞の原因となります。
このように、家庭で血圧を測定する場合には、1回測るだけでは不十分で、時間を決めて、まず起床時(早朝)、昼間の落ち着いた
時間帯、就寝前の3回の測定が望ましいのです。
高血圧症対策といえば「食塩制限」というくらい、食塩制限は高血圧治療の基本中の基本となっています。 確かに、食塩の摂取量と高血圧
は比例していますし、脳卒中や高血圧の人の多い東北地方では、他県と比較して食塩の1日摂取量が多いことがわかっています。
しかし、最近(1997年)アメリカで興味深い報告が出されました。 DASH(Dietary Approach to Stop hypertension)理論と呼ばれる
もので、これまでの高血圧を起こす最大の原因が食塩であるという説に対して、食事に飽和脂肪酸(動物性脂肪)
が多いことと、野菜や果物が少ないことが原因であるという説で、現在では多くの研究者の支持を得ています。
ただ、日本ではこれまで、アメリカのように脂肪分の摂取はあまり多くなく、このDASHの理論は必ずしもあてはまるとはいえませんが、徐々に
欧米化している日本の食生活を思うと、食塩のみに高血圧の原因を押し付けるわけにはいかないようです。
◆高血圧症の食事療法
・食塩の制限 ・・・ 食塩は7g以下(最低10g以下)に
・飽和脂肪を減らす(動物性脂肪分を25%以下に)
・コレステロール摂取量を1日250mg以下に
・野菜と果物(カリウム)をたっぷりとりましょう
・低脂肪牛乳でカルシウムをたっぷりとりましょう
これは、アンチエイジング医療の基本中の基本になります。
◆高血圧症の生活療法
・1日40分以上のウォーキング
・肥満の人はぜひ減量を。 BMI25以下に
・禁煙
・適度なアルコール(酒1合、ビール中びん1本)
・十分な睡眠
この中で、運動療法は特に重要です。 運動療法は糖代謝、脂質代謝など全ての体の代謝に好影響を与えます。
また、激しい運動をすると、その間に収縮期血圧が高まる危険がありますので、ウォーキング、水泳、サイクリングなど、おだやかで長時間
行える運動を選んでください。 大切なことは、可能な限り、できるだけ毎日実施することです。
現在、降圧薬には多くの種類があります。 高血圧症治療の成否は、ただ血圧を下げるのみでなく、高血圧性合併症を考慮しながら、
どのタイプの薬を選択するかにかかっています。 適切な薬が選択されることにより、高血圧性合併症が悪化することを防ぐことが
でき、より元気で長生きにつながります。 これこそが、高血圧症のアンチエイジング医療そのものなのです。
◆降圧薬の種類
1.カルシウム(Ca)拮抗薬 アダラート、コニール、ノルバスクなど
カルシウムイオンの細胞外から細胞内への流入を阻害し、心筋や血管平滑筋の収縮を抑制し、血管を広げ、血圧を下げます。 降圧効果は
強力で、これまで日本でもっともよく使われていました。 動悸、顔面紅潮、ほてり、歯肉の腫脹などの副作用があります。
2.ACE阻害薬 コバシル、エースコール、タナトリルなど
血管を収縮させるホルモン、アンジオテンシンUへの変換酵素(ACE)を阻害し、このホルモンの合成を低下させることによって血圧を下げ
ます。 腎臓の保護作用があり、この点で大変注目されました。 からぜきが副作用としてみられるため、同様の効果をもち、この副作用のない
ARBが現在では多用されています。
3.ARB(AU受容体拮抗薬) ミカルディス、ブロプレス、ニューロタンなど
血管を収縮させるホルモン、アンジオテンシンUの特異的な受容体(AT1レセプター)への結合を選択的に阻害して、血圧を降下させます。
からぜきはみられません。 このARBの特徴は、血圧降下作用のみでなく、心保護作用(心肥大の軽減作用)、腎保護作用、
血管保護作用などの臓器保護作用を持っていることです。 この薬を適切に用いることで、多くの高血圧性合併症の防止が期待
されます。
4.利尿薬 フルイトラン、ナトリックス、バイカロンなど
腎臓に作用して、ナトリウムと水分を尿中に排泄し、循環血液量を減少させ、血圧も下げる薬です。
5.β(ベータ)遮断薬 インデラル、ミケラン、セロケンなど
体内のカテコールアミンがβアドレナリン受容体に結合するのを遮断し、カテコールアミンの作用を抑制します。 主に心臓に働き、心拍出量と
心拍数を減少させて血圧を低下させます。 ただし、喘息や閉塞性動脈硬化症には禁忌です。
6.α(アルファ)遮断薬 ミニプレス、カルデナリンなど
体内のカテコールアミンがαアドレナリン受容体に結合するのを遮断します。 αアドレナリン受容体は血管の収縮に関与しているため、アルファ
遮断薬で末梢血管が拡張し、血圧が下がります。 副作用として立ちくらみや鼻詰まりがみられます。
◆高血圧性合併症に対する適切な降圧薬
1.脳血管障害(脳梗塞、脳出血症)
カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、ARBが第一選択薬になります。
2.狭心症
狭心症には、冠動脈拡張作用のあるカルシウム拮抗薬が使われます。 労作性狭心症(運動負荷時に胸痛が起こるタイプ)にはβ遮断薬も
使われます。
3.心筋梗塞
心筋梗塞後の高血圧症には、ACE阻害薬やARBが使われます。
4.心肥大
心肥大は、高血圧合併症の中でもっともよく見られる病態です。 心肥大改善効果のあるACE阻害薬やARBが適応となります。
5.心不全
心不全の原因を確認して治療すべきですが、一般的には、利尿薬、臓器保護作用のあるACE阻害薬、ARBが適応になります。
6.腎臓病
腎臓病では、血圧の上昇が起きやすくなります。 また、糖尿病の合併症として腎不全が出現し、高血圧が認められやすくなります。
このような状態では、腎保護作用を持つACE阻害薬やARBが一番の適応となります。
最近の研究で、ARBには多くの臓器を保護する作用があることがわかってきました。
ARB(AU受容体拮抗薬)は、血圧上昇物質であるアンジオテンシンUが、血管や各臓器の受容体(AT1受容体)に結合するのを拮抗的
に阻害して作用を発揮する降圧薬です。 また、AT2受容体に結合して、臓器保護作用をすることも明らかになりました。 AT受容体は、
血管のみでなく、心臓、脳、腎臓にも存在し、アンジオテンシンUが心臓では心肥大から心不全を、脳では脳卒中を、腎臓では腎硬化症から
腎不全を起こすのをARBは拮抗的に阻害して防ぐのです。 また、アンジオテンシンUは、血管内皮細胞や血管平滑筋細胞に直接働き、
動脈硬化促進因子を放出させ、血管の肥厚を起こすことが明らかになりましたが、ARBはこの働きをも防止し、血管の動脈硬化を直接的に
抑制します。
一方、さらに驚くべきことに、ARBには糖尿病の新たな発症を抑制する作用もあることが、外国の臨床研究で明らかにされました。
このように、ARBには血圧を下げる作用ばかりでなく、直接的な動脈硬化防止作用、心臓、脳、腎臓に対する臓器保護作用、
さらに糖尿病予防作用まであることが明らかになり、高血圧に伴う血管障害性合併症、糖尿病そのもの、糖尿病に伴う血管障害性合併症を
予防する降圧剤として、きわめて効果が高いことが予想されるのです。
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